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千葉市民創作ミュージカル出演者募集〆切間近 [その他]

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はじめに台風15号で被災された皆さんにお見舞い申し上げます。わが家は千葉市稲毛区にありますが、何とか停電も断水もせずに無事でした。隣接する四街道市、若葉区などにお住まいの方は停電や停電などつらい思いをなさったことでしょう。総武本線も止まり、四街道駅のロータリーは千葉駅行きのバスを待つ人であふれていました。ありふれた日常って本当に有り難いものですね。そしてなんて脆いものなんでしょう。
被災された方の日常が早く戻ることを祈っております。

さて、来年6月28日に上演予定の千葉市民創作ミュージカルは、私が原作を書いた『千年天女』をミュージカル化したものです。その出演者募集〆切が迫って参りました。
今の千葉市市街地にかつて池田の池という大きな池があったそうです。千年前、その池の畔に天女が舞い降りた。この有名な天女伝説をもとに小説を書いてみました。
モノレールの県庁前駅の隣にある羽衣公園には、天女が羽衣をかけた松の木と由緒書がありますから、ご存知の方も多いことでしょう。

この作品は、千年を地上で人間として生きることになった天女と、3つの時代を生きる人々とのふれあいを描いています。そのふれあいを通して私は今の平和がどんなに待ち望まれたものかを描いたつもりです。平和って脆いものです。今を生きる私達が大切に守っていかないとすぐに壊れてしまいます。みんなで平和を守りましょう。そんなメッセージを一緒に伝えてくださる方、参加お待ちしています。

もちろん私も参加します。歌もダンスも自信はありませんけど、みんなで楽しくミュージカルを作りましょう。小笠原響先生をはじめプロの先生方のご指導で、拙作がどんなミュージカルになるか今からワクワクしています。もちろん千葉市民でない方も参加できます。よろしくお願いします。

〆切は9月17日水曜日。申込書必着です。申込書はホームページからダウンロード出来ます。千葉市文化会館にも置いてあるそうです。

↓ 申込書など詳細はこちら。


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庭のやまぼうし [その他]

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庭のやまぼうしが熟れてきました。もう食べられるかな?


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今週末は四街道ミュージカルだ! [観劇]

今週末は四街道ミュージカルです。

演目
「0番線の汽車に乗って~四街道駅物語」

8月31日(土) 13:30~
9月1日 (日) 13:30~
※開場は30分前

全席自由
・大人前売り2,000円(当日500円増)
・小中高生・障がい者1,000円
・未就学児入場可(膝上観賞の場合は無料)

詳しくは
https://www.facebook.com/yotsu.musical

地元の人なら誰もが知ってる四街道駅の0番線。魔法学校に行けちゃいそうな謎のホームだけど、その意味を知っている人は少ないですね。知りたい方はぜひミュージカルを観に行きましょう。実は私も知りません(笑)もちろん観に行きます。楽しみです。

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共通テーマ:演劇

同人誌「山田組文芸部」 [その他]

同人誌を始めました。
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現在同人の数は4人。
まめたろう、千秋明帆、三角重雄、そして私です。

まめたろうは、アルファポリス絵本・児童書大賞にて3位入賞した『ロボットハート』という作品で注目されている高校2年生の絵本作家です。
千秋明帆は20代の女性。
三角重雄は私とほぼ同年代の男性。彼は『ブックショートアワード』の常連です。

 *まめたろうのアルファポリスの『絵本のひろば』で読むことができます。
      https://ehon.alphapolis.co.jp/content/detail/1319

 *三角重雄のショートショート作品は『ブックショートアワード』で読むことができます。
      https://bookshorts.jp/novel201811/3/

創刊号(夏号)のテーマは「ぬばたま」
とても個性的な作品集になったと思います。

『私は「私」をディスアピア』
『射干玉鳥が告げる夏』
『日本信者』
『NUVA』
の4作です。

とりあえず作者名を伏せて誰がどの作品を書いたのか分からないようにしてあります。読んでいただいた方に4点満点で点数を付けてもらうためです。

しかし、今のところ投票者ゼロ。なかなか厳しいですね。
まあ創刊号だから仕方ないか。
とにかく細く長く続けて多くの方に読んでいただけるような同人誌を目指します。

ちなみに秋号のテーマは「たそがれ」です。
どんな作品が集まるか今から楽しみです。あっ! 私も書かなくちゃ。

同人も募集中ですので興味のある方は、まずはこのブログにコメントをお願いします。

創刊号はこちら↓でお読みいただけます。

https://novela.at.webry.info/

よろしければ採点およびご感想もよろしくお願いします。
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夏の小芝居祭りを観てきました。 [観劇]

高校演劇部の夏の小芝居祭りを観てきました。
会場は千葉市南部青少年センターです。

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冬の小芝居祭りはすでに3回やってますが、夏は初めて。少しでも部員の発表機会が増えるようにと顧問の先生たちが頑張って運営しています。

冬の方は参加校が自由に演目を選んで上演していました。しかし、今回は10分ほどの短い作品2本を用意して参加校に送り、部員それぞれがやりたい演目と役を選んで台詞を入れてきます。そして会場での稽古で初めてどんなメンバーと組むかを知らされるという方式です。つまり、学校の枠をなくして役者をシャッフルして上演するのです。

私は2日目しか観ることが出来ませんでしたが、どの発表も短い稽古で作り上げたとは思えない完成度でした。同じ脚本でもキャストの個性や演技、何より演出の工夫によってこんなに
違いが出るんだなあと実感しました。ぜひ来年以降も続けてください。

トリは顧問の先生方の上演でした。今回は参加できる顧問が少なくて、OB、それに現役の部員にも助けて助けてもらいました。私も少しだけお手伝いしました。前日1日の稽古も、当日午前中のリハーサルもとても楽しかった。芝居作りはやっぱり楽しい。

参加した皆さんお疲れ様でした。
秋の大会に向けて頑張ってください。

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「千年天女」の舞台を回ってみた [その他]

千葉市民ミュージカル「千年天女」の出演者募集が本格的に始まりました。拙作がどんなミュージカルになるのか、ワクワクしています。
ということで、作品のキーアイテムである「蓮の花」が咲く千葉公園、そして天女が舞い降りたという松がシンボルになっている羽衣公園を訪ねてみました。

千葉公園は6月に2回行きましたが、時間帯が悪くてあまり咲いていませんでした。

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羽衣公園はこんな感じ。モノレールの県庁前駅の隣にあります。↓

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出演申込みの締切は9月17日(必着)。市外の方でも大丈夫です。
詳細はブログ記事「千葉市民創作ミュージカルの出演者募集!」を御覧ください。

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御朱印帳散歩29 お伊勢参り(令和篇) [朱印帳]

元号も令和に変わったので、改めてお伊勢参りに出掛けました。今回は「浜参宮」で知られる二見が浦から外宮、内宮と回ります。さあ、出発です。
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↓ 名古屋駅で近鉄特急に乗り換えます。前回は乗り換え時間が短くて焦りました。その上、なんとか間に合ったと思ったら大雨で運休。今回は天皇皇后両陛下の名古屋行幸と重なって、近道が使えず遠回りを余儀なくされました。どうも名古屋駅での乗り換えにはトラブルがあります。
しかし、今回は乗り換えに十分時間を取ってあったので、近鉄のホームでコーヒーを飲む余裕もありました。

さあ、ここからビスタカーに乗って伊勢市駅に向かいます。

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伊勢市駅前からタクシーで二見が浦へ。残念ながら直通バスはもうないそうです。内宮経由のバスはかなり時間がかかるということなので、タクシーを選択しました。

↓ 二見興玉神社の鳥居。

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↓ シンボルのカエルが何匹もお出迎え。

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↓ 夫婦岩です。

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↓ 御朱印です。
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↓ 外宮に戻りました。
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↓ 外宮の御朱印です。

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翌日は内宮に行きました。

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↓ 五十鈴川。美しい。

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↓ 御正殿の周囲には立派な木がたくさん。

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↓ 御正殿です。

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日々の平和を感謝。
令和最初の参拝を無事終えました。

付録。
外宮参道にはこんな自動販売機がありました。

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千葉市民創作ミュージカルの出演者募集! [その他]

私が原作を書いた千葉市民創作ミュージカルの日程が発表されました。

公演日 令和2年6月28日(日)2回公演

作品『千年天女』(小笠原響 演出・脚色 高平 九 原作・脚本)
     題名は変更されるかもしれません。
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出演者募集
 開 始 6月から
 対 象 小学3年生から大人。千葉市外の人も参加可能
 定 員 100名
 参加費 30,000円(5,000円×6回払い) 
     親子・姉妹・兄弟割引あり 各24,000円
     衣装・ヘアメイク代は別途。

 応 募 出演者募集チラシ裏の申込用紙を郵送。またはメール。
     申込み用紙はhttp://www.f-cp.jp/CulturePF/でエクセル版・PDF版をダウンロード
     できます。送付してもらうこともできます。
     応募先は郵送の場合は、
     〒260-0013 千葉市中央区中央2-5-1 千葉市文化振興財団
     「千葉市民創作ミュージカル出演者募集」係
     メールはas-chiba@f-cp.jp 件名を「千葉市民創作ミュージカル出演者応募」とする。
     
オーディション 10月27日(日) 10時~16時。
        書類選考の後、稽古の参考として行われるそうです。
        時刻は書類選考の結果通知で伝えられるそうです。
        内容は2分程度の自己PR(特技など)

稽古日程
11/2(土)17(日)30(土)
12/7(土)15(日)
1/11(土)25(土)
2/9(日)22(土)
3/7(土)15(日)28(土)
4/4(土)12(日)18(土)26(日)
5/4(祝)5(祝)10(日)17(日)24(日)30(土)
6/6(土)13(土)20(土)21(日)24(水)25(木)26(金)27(土)

 時間は原則10時から16時。ただし公演日近く近くの平日は夜間。
 日程の変更もあるそうです。

稽古場 千葉市文化センター スタジオⅠほか(千葉中央ツインビル6階)

スタッフ 演出 小笠原響 作曲 日高哲英 歌唱 横洲かおる 振付 小林真梨恵

 詳細は千葉市文化振興財団から配付される出演者募集チラシ、または財団のホームページ(http://www.f-cp.jp)をご覧ください。ただし現在はまだ掲載されていません。

 私も出演したいと思っています。一緒に楽しみましょう。
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ショートショート作品 『ドラゴンパレス』 [短編]

ショートショート作品 『ドラゴンパレス』

**あらすじ***

 ホームレスの島は四十年ぶりのクラス会で良子とその夫亀岡に再会した。亀岡はIT業界で大成功をおさめた大富豪だった。だが、なぜか島には亀岡という男の記憶がなかった。亀岡に「ドラゴンパレス」という高級クラブに連れて行かれた島はホステスの乙女に一目惚れしてしまう。その島に亀岡がある提案をした。


**本文***

 中央のテーブルで車椅子に乗ったかつての担任の山口がクラスのマドンナ阿部良子と談笑しているのが見えた。このクラス会は山口の古稀を祝うものだった。山口は少し前に脳梗塞をやって半身にまひが残ったという。剣道部の顧問で教室に竹刀を持ってきては、何か気に入らないことがあると振り回していた。そんな野蛮きわまりない担任が今では白髪の好々爺になっていた。無理もない。中学を卒業して四十年が経っていた。
 島光太郎は気の抜けたビールを口に運びながら周囲を見渡した。さっきから同じテーブルにいる連中の名札を盗み見ているのだが、そんな名前の人間がクラスにいたことすら思い出せない。どうやら連中同士も同じらしく、互いのことを探り探り話しているのが面白い。まるでみんなが浦島太郎か浦島花子になったようだ。
 クラス会の席次は担任の周りが上席だ。そのテーブルには学級委員だった福尾や剣道部の部長だった牧原などの姿が見える。みんなクラスのリーダーで成績もよかった。なのになぜか島は会場の端のテーブルだった。さっきからそれをずっと訝しく思っていた。クラス会というのは過去の自分と再会する場所である。どんなに歳を経てもここに来れば、中学校の頃の席次に座ることができる。俺はあのテーブルにいるべき人間なのにと島は思った。マドンナの阿部良子もまた女子のリーダーだった。学年でもトップの成績だった島がその中に加えられないのはおかしい。
「島ちゃん。久しぶり」
 良子が近くにやって来て声をかけた。当時と同じように、笑うと片えくぼが出来る。修学旅行前後の短い間、良子は島のものだった。旅行から帰った代休の日に良子は初めて島の家にやって来て二人は結ばれた。どちらも初めてだった。島は良子のようないい女と別れた理由を思い出せなかった。それをどうしても聞きたくて思い切ってここに来たのだ。
「ちょっと来て、旦那に紹介するから」
 ところが、良子に機先を制され中央のテーブルに連れて行かれた。島がテーブルに近づくと福尾と牧原の顔が緊張するのが分かった。二人とも立派な身なりをしていたからそれなりの地位に就いているだろうが、そんなことで中学時代の席次は変わらない。島は少し愉快な気分になった。それにしても二人のどちらかが良子の夫なのか。
「やあ、福尾。牧原も元気だったか」
 二人は「やあ。島ちゃん」と言ったが、顔はこわばっている。当時の力関係を快く思っていないにちがいない。
「おお。島か。お前とはずいぶん会ってないな」
 隣の男と話していた山口が赤い顔で振り返った。
「先生もお元気そうで何よりです。ご病気なさったそうですが、その後どうですか」
「こんなざまになっちまったよ。もう長くないだろうな」
「先生。またそんなこと言って。あなた先生にお酒勧めちゃだめだって言ったでしょ」
 良子が「あなた」と呼びかけたのは山口と話していた黒髪の紳士だった。クラスの男達が一様に肥えて、頭も禿げるか白髪になっている中でこの男だけは髪が真っ黒ですっきりした身体に高価そうなダークスーツを身につけていた。さて、こんな奴がクラスにいただろうか。どこかで見た顔ではあるのだが思い出せない。
「ごめんな。でも少しくらいなら大丈夫だと福尾教授のお許しが出たんだ」
 福尾は大学の医学部に進学して今ではその大学の教授になっていた。中学時代の成績は学年で四番か五番あたりをうろうろしていたはずだ。毎回トップ争いをしていた島には及ばない。それが大学の医学部教授様とは世の中はどうかしている。
「薬も服用してるからビールを少しくらいならなんてことないさ」
 福尾は真っ赤な顔をして良子に弁解した。
「命短し飲ませよ乙女ってな」
 牧原が福尾の肩を抱きながら言った。牧原はしばらく教育委員会にいたが、この春から進学校として有名な高校の校長になったと誰かから聞いたばかりだ。この男の席次はせいぜい五十番程度。それが校長とは笑わせる。
「この人が私のダーリン」
 良子がテーブルを回って担任の向こうにいるさっきの紳士に腕を絡めた。
「島君。久しぶり」
 声を聞けばと思ったが駄目だった。男は色白で涼しげな整った顔立ちをしている。顔も身体も引き締まっているのがスーツの上からでも分かった。身体つきはバスケットボールかバレーボールの選手を思わせた。だが話し方や身のこなしはエレガントで、島を圧倒するような品のあるオーラを纏っていた。そんな男がクラスにいたら島は激しい嫉妬心を抱いただろう。だが、そんな記憶はない。
「ああ。久しぶり」
 しばらく話せば思い出すだろうと島は思った。ここにいるからにはクラスメイトには違いないのだから。そう思って男と良子の近くに移動しようとしたとき、
「では皆様。席にお付きください」
 司会者の鈴木の声がした。鈴木は地元でラジオパーソナリティをしているらしい。慣れた司会ぶりだった。席を立っていた人々がゆっくりと自席に戻って行く。島も仕方なく自分のテーブルまで戻った。
「それでは、山口先生にクラスのマドンナ良子から花束と記念品を贈っていただきましょう。皆様盛大な拍手をお願いいたします」
 拍手の中、さきほどの男が車椅子を押して担任を金屏風の前に移動させた。良子が山口に花束を渡すとさらに盛大な拍手が起こった。司会者の鈴木が担任にマイクを渡す。
「皆さんありがとう。良子ありがとう。みんなが中学校を卒業して四十年。それぞれの分野で成功している姿を見るのが、今の私の唯一の楽しみです。ことにこの良子君の夫亀岡利一君は今ではリチャード亀岡という名でIT業界だけでなく世界を舞台に活躍している。正直言って、中学時代の亀岡君が将来こんなに活躍するとは私は思わなかった」
 会場に笑いが起こった。亀岡も別に不愉快そうではない。
「こういう嬉しい誤算が起こるから人生は面白い。今後の皆さんのご活躍をこれからも祈っております。今夜は本当にありがとう」
 また盛大な拍手が起こった。その拍手は車椅子の後ろに立つ亀岡と妻の良子にも贈られたものだった。しかし島は会場の隅のテーブルで拍手も忘れるほど驚いていた。あの亀がマドンナの良子を手に入れた。しかもIT業界の寵児として夙に有名なリチャード亀岡だなんて信じられなかったからだ。

 島は暗い公園の林を抜けて自分の小屋に入った。小屋と言ってもビニールシートと段ボールを組み合わせた粗末なものだ。スーツとネクタイ、ワイシャツ、それに靴を脱いで、いつものジャージ姿になった。脱いだ物は丁寧に畳んで、スマホと財布などの小物とまとめてサドの小屋に運んだ。もちろんタッパーに入った宴会の残り物を添えてだ。
「サドちゃん。ありがとさん。助かった」
 サドは毛布にくるまってノートパソコンを操作していた。この公園に住む五人のホームレスの中でサドだけがスマホやパソコンを持っていた。どちらも別れた妻が持たせてくれたものだそうだ。サドはそれらを使って子ども達と連絡を取っていた。妻としては子ども達の父親がホームレスだなどと知られたくないのだろう。スーツを持っているのも月に一度子どもたちと会う時のためだ。
「ああ。それでどうだったんすか。クラス会は」
 サドはパソコンの液晶画面から目を離さずに尋ねた。年齢は四十歳くらいだろうか。五人の仲間の中では一番若い。月に一度子どもたちと会うので髪もいつも短くしている。服装さえきちんとしていれば誰もホームレスとは思わないだろう。
「嫌な奴がたくさんいた」
「そりゃそうですよ。世間はここほど甘くないすから」
「ところでサドちゃん頼みがあるんだ」
 二次会のカラオケで島は良子の隣に坐った。当然だがその向こうには亀岡利一がいる。二人がどうして結婚したのか聞きたかった。中学生の頃、良子と亀岡は同じクラスにいても全く別世界に住んでいるも同然だったからだ。卒業するまでの間に数えるほどしか言葉を交わしたことはないに違いない。それとも島の知らないところで二人の交流があったのか。良子はなぜ島と別れて亀岡と結婚したのか。それが知りたかった。だが、カラオケの喧噪の中ではそれは叶わなかった。帰り際にかろうじて良子とメールアドレスを交換することが出来ただけだ。
「その良子って人からメールが来たら伝えればいいんすね」
「そうしてくれるかい。恩に着る」
「良子って島さんの昔のこれっすか」
 サドは初めて液晶から目を離して島に小指を突き出した。先週、ゴミを漁っていたところをコンビニの店員に見つかって殴られ前歯が一本欠けていた。それも別れた嫁さんに頼んで治してもらうようだ。嫁さんは歯科医だった。
「違うよ。サドちゃんなら知ってるだろ。リチャード亀岡って」
「当たり前っすよ。これでも昔はIT業界にいましたからね」
「良子はその亀岡の奥方なんだ。ついでに言うと亀岡も同級生さ」
 島は少し得意になっている自分に気付いて恥ずかしい気持ちになった。サドはそんな島の思いに気付かず、本心から驚いていた。
「それ、ほんとっすか。信じられねえ。あのリチャード亀岡と。へえ」
 サドは島と亀岡との格差を驚き、そして面白がっていた。
「悪かったな。同級生がホームレスで」
 島はサドに自分もホームレスであることを思い知らすようにそう言った。それが分かったのだろう。サドは首を竦めて、
「人間の運命なんて紙一重なんすね。きっと」
 と言いながらスマホを手にした。液晶が光が少し寂しそうなサドの顔を照らした。
「早速来てますよ」
 サドはスマホを島に渡した。良子のメールには、
(今日は久しぶりに会えて嬉しかった。ところで、亀岡があなたともう一度会いたいそうよ。どうする?)とあった。
「リチャード亀岡って奴。そんなに偉いのか」
 サドにスマホを返しながら島が尋ねた。
「少なくとも金は持ってますね。今じゃ世界的な大富豪っすよ。ほとんどタイムラグなしにどんな言語間でも翻訳してメッセージを送れるSNSを開発したんですよ。世界中の人がそのSNSを通じて友達になれるんです。すごいっすよ。世界を一つにしたんすから。そういう意味じゃ偉い人ですね。ノーベル平和賞の候補にも挙がったっていうし。もちろん俺にとっちゃ島さんへのリスペクトの方が強いですけどね。何しろここに住めるのは島さんのお陰なんすから」
 島たちがこの公園に流れて来たのは河川敷を追われたからだ。そしてたまたま公園の池に落ちて溺れている子ども島が助けた。その話が広まると地域の人は島たちが公園に住むことを黙認してくれた。時には差し入れまでしてくれるようになった。島たちも進んで公園のゴミ拾いをしたり、落ち葉の片付けを手伝ったりして少しでも長くこの公園に住めるように努力をしている。そして、いつの頃からか島がリーダーになり、他の四人はそれぞれサド、アマミ、ミヤコ、シキネと名乗るようになった。むろん、どれも島の名だ。
「それで返信はどうします」
 島は少し考えて、
「なあ。サドちゃん。またスーツやスマホを借りてもいいか」と言った。

 数日後の夜、島と亀岡はドラゴンパレスという「奥銀座」の高級クラブにいた。
 島の転落は祖父が起こした玩具会社を継いだところから始まった。浅草橋にあった小さな玩具問屋をいくつかのオリジナル玩具のヒットによって、大手の仲間入りをされたのは祖父だった。島の父親はそれを継いだもののゲーム機やソフトを毛嫌いしたために時代から取り残された。だが、祖父の代にヒットした商品は長い間世界の子どもたちに愛されていたから、それだけでも何とか生き残ることが出来た。決定的だったのは島がゲーム機やソフト開発に手を出したことだ。すでにゲーム機全盛期が終わっていることを島は理解できなかった。反対する重役たちを若い自分を馬鹿にしているのだと勘違いして追い出した。その挙げ句ロングセラーの玩具のライセンスまで手放す羽目になった。役員会で引導を渡された島の生活は荒れて妻とは離婚。逆転を狙い私財をつぎ込んで投資した会社が倒産し、家屋敷までも手放してついには自己破産。そして今はホームレス。これが島の人生である。
 社長の時にはもっぱら銀座で遊んだ。社長仲間から「奥銀座」の噂を聞いたことがある。だが、三次元から四次元から見えないように、この社会にはいくつかの次元がある。セレブ中のセレブだけが利用する遊び場。それが「奥銀座」であり他の階層からは巧妙に隠されている。ドラゴンバレスは「奥銀座」の中でも超一流のクラブなのだそうだ。
 案内された部屋でソファーに坐っていると、すぐに五人の女性達が入って来た。彼女達はよく訓練された小隊のように連携して亀岡と島を楽しませた。酒やフルーツを勧めるタイミングも会話の進め方も実に見事で、銀座を極めたつもりでいた島もその徹底したもてなしに舌を巻いた。そして、三十分ほど経つと彼女達をコントロールしている中心の女性がいることに気付いた。彼女は初めての客である島の嗜好を微妙に感じとって他の女性達を入れ替えていた。初めはバラバラだった女性のタイプがその頃には島の好みに統一されていた。せっかく好みの女性に囲まれた島だったが、次第に彼女達の隊長にばかり目がいくようになった。彼女も微妙にそれを感じのであろう。さりげなく島の隣にやって来た。
「君、名前は」
「乙女と言います」
 笑顔になると口の両側にえくぼが出来た。どことなく良子に似ていると島は思った。他の四人の女性達と比べると容姿の華やかさでは見劣りがした。それでいて一度気になると目が離せない存在感がある。
「君は……」
 島がそう言いかけた時、
「悪いがこれから大事な話があるんだ」
 亀岡が言うと乙女の目配せで女性達は潮が引くように部屋から消えた。島は乙女の後ろ姿を目で追った。
「良子がね。島ちゃんのことを心配しているんだ。怒らないで聞いてくれたまえよ。君のそばに寄ったときに臭ったと言うんだよ」
 その言葉を聞いた時、島は身が縮むような恥を感じた。それは自己破産した時さえ感じたことのない怖ろしいほどの恥だった。クラス会に出ると決めた島はまずアマミに相談した。アマミは元銀行員で公園の仲間の金を管理していたからだ。誰の金ということでもない。五人が何らかの収入を得ると必ずアマミに渡していた。そして必要がある時にはアマミに頼むのだ。その金を出すか出さないかはすべてアマミの判断である。リーダーの島にも強制は出来ない。
「中学のクラス会?」
 アマミは赤いニット帽の上から頭を掻きながら言った。次は脇の下。そして太もも。アマミは身体を掻くのが癖だ。しかもそのルーティーンは決まっていた。
「なら、まず銭湯に行けよ。俺らはまず臭いで嗅ぎ分けられるんだ」
 と言って会費の六千円だけでなく銭湯代や交通費、それに二次会の費用までも加えて持たせてくれた。銭湯で身体中が赤くなるほど垢をこすったつもりだった。しかし、微妙な臭いを良子に嗅ぎ分けられていたわけだ。
「良子から困っているなら助けてあげてほしいと言われた」
 亀岡は癖なのだろう。大ぶりな腕時計の表面を指でこすった。文字盤が光っているのはダイアモンドだろうか。
「だけど、それじゃあ。君のプライドを傷つけることになる。だから、一つ提案がある」
 もうとっくにプライドは傷付いていた。初恋の相手に一生懸命取り繕った仮面を引き剥がされ、その夫に同情され……だが、自分にプライドなどまだあったのか。傷つけられて初めてそのことに気付いた。亀岡の指はまだ時計のガラスを拭っていた。
「提案?」
「うちの会社が国際的なSNSを運営していることは知ってるか?」
「知ってる。どんな言語もたちまち翻訳してコミュニケーションが取れるそうだな」
「その結果、私のところには世界中の情報が入って来るようになった。中には研究の経済的な支援を求めるものもある。その中にタイムマシンがあった」
「はあ。タイムマシン」
 からかわれているのだと島は思った。真面目に話しを聞いていた自分を呪った。こいつは妻の良子が気遣った男をもて遊んで楽しんでいる。いや、もしかすると良子も一緒になってからかっているのかもしれない。島は拳を握りしめた。亀岡は島に近寄ってその拳をそっと掌で包んだ。
「私も信じられなかったよ。人間が時間を遡れるわけがない。だがな。身体は無理でも意識だけなら可能だと分かった。人の意識というのは我々が思っているよりも自由なんだ」
「馬鹿にするな」
 島は亀岡の手を振り払った。
「信じられないのも無理はないな。だが本当のことだ。我々は意識だけを過去に飛ばすことができるようになったんだ」
 亀岡は島の目を見据えてそう言った。島はその目に見覚えがあった。茶色い瞳がかすかに震えている。
「島ちゃん。もう一度中学時代に戻ってみないか。どうせ長くはいられない。たった一日だ。一日だけ君の意識は中学時代に戻る」
「お前の研究の実験台になれってことか。その報酬でもう一度勝負させてくれるとでも言うのか」
「いや。報酬は金でなくてもいい。私は良子と結婚して運気を手に入れた。今の成功はすべて良子のお陰と言ってもいい。もちろん今さら君に良子を譲るつもりはない。だが、もし君に欲しい女がいるなら……」
 不思議だが、その時の島の脳裏にはくっきりと乙女の顔が浮かんでいた。ほんの一時間ほど前に会ってほとんど言葉も交わしたことがない女性。それが島を再生させる女性なのか。
「それで何をすればいい」
 
 島は中学生だった。亀岡の言うとおり意識だけが中学時代に戻っていた。最初はただの夢かと思った。今は高層マンションが建っているが、もともと島の家族は中学校のすぐ近くの大きな屋敷に住んでいた。その家の二階のベッドで目覚めた。一瞬、その後の没落こそ悪夢だったのではないか思った。
 しかし、夢ではなかった。おそらく中学生の本当の島の意識は麻酔でも嗅がされて、意識の地下室にでも押し込められているのだろう。未来から来た島がその身体を完全に乗っ取っていた。島はすぐにパジャマと下着を脱ぎ捨てて鏡の前に立った。当たり前のように漲った下腹部、ドクドクと身体中をほとばしるように巡る熱い血を肌の下に感じることができた。このたぎるような力があれば何でも出来る、何にでもなれる気がした。
 制服に着替えて、まだ若い母の作った朝食を食べ、新聞を読んでいる父親と茶を飲んでいる祖父に「行って来ます」と言って家を出た。おそらく過去の島にとっては当たり前の日常が愛おしくてならなかった。
 中学校では記憶の中の阿部良子が新鮮な片えくぼで迎えてくれた。島が「おはよう」と挨拶すると、良子は顔を赤くして女子の群れに逃げ込んだ。どうしたんだろうと振り返ると黒板にチョークで書かれた日付が目に入った。その日は修学旅行の代休明けだった。つまり昨日、島と良子は初めて結ばれたのだ。
 窓側の一番後ろが島の席だった。その前が福尾、そして島の隣が牧原だ。良子の席は教卓の真ん前だった。良子は時折島を振り返って笑いかけ恥ずかしそうに急いで背を向ける。可愛いと島は思った。
「島ちゃん。亀、今日やるんだよね」
 学級委員で将来は教育者になる福尾が暗い声で囁いて来た。隣の牧原も椅子を引きずって島に近寄って来た。
「赦せないよな。良子にちょっかい出すなんて。転校生のくせに」
 教育者になる牧原の言葉とも思えなかった。その時、島は思い出した。そうだ。亀岡は修学旅行の直前に関西から転校して来たよそ者だった。
 担任の山口が教室に入って来て福尾が号令をかけた。山口はいきなり竹刀で教卓を叩き、修学旅行でのちょっとした遅刻や消灯破りについて説教を始めた。教室を恐怖が支配していた。島はあまりに懐かしくて笑みを浮かべてしまった。山口と目が合い、慌てて真顔に戻ったが遅かった。山口は狭い机間を乱暴に通って島の前に立った。
「コラッ! 島! 何を笑っとるか!」
 山口の竹刀が島の短い頭髪を掠めて背後の壁に当たって大きな音を立てた。島は立ち上がり直立不動で山口の目を見ながら、
「すみませんでした。先生のことを笑ったのではありません。許してください」
と大きな声で言った。その島の左頬を山口の分厚い平手が襲った。島は反動で飛ばされ牧原にのしかかる形で止まった。山口は黙って教壇に戻った。
 この日の一時間目は修学旅行の反省会だった。だが、山口は自分達で反省会をやって終わったら、会議録を持って来るようにと福尾に指示をして教室を出て行ってしまった。
 福尾は前に出て修学旅行の反省を発言するように促した。すかさず牧原が手を挙げ亀岡が班行動の時に別行動をして友人と会ったと告発した。それまで島は亀岡がどこに座っているか分からなかった。彼は教室の廊下側の先頭に小さく震えて座っていた。色白で影の薄い小柄な少年。将来の精悍な大富豪の片鱗はどこにもない。これでは記憶にないのも無理はないと思った。その時、良子が「はい」と手を挙げた。
「亀岡君はここに転校する前は京都にいたそうです。確かに別行動はよくないことですが、せっかく京都に帰ったのだから、昔の友人と会いたいと思ったのも無理はないと思います」
 女子の何人かが頷いた。
「でもさ。修学旅行は集団行動を学びに行くんだぜ。それを破るってのは重罪だよ」
 鈴木がよく通る声でそう発言すると多くの者が「そうだ。そうだ」と言った。ラジオのパーソナリティになるだけあって鈴木の声には説得力がある。
「今はこちらの人間なんだからさ。昔の友達より今の友達を大切にするべきだと思う。亀の行動は僕らを馬鹿にしてる」
 牧原が追い打ちをかけた。さらに大きく同意の声が上がった。
「山口に報告すると亀がどんなひどい目に遭うか分からない。ここは僕たちの中だけで解決しようぜ」
 福尾が提案した制裁は怖ろしいものだった。牧原たちが教室の後ろで亀岡を押さえ付け、クラス全員が1人ずつそこに行ってコンパスの針で亀岡の身体のどこかを刺すのだ。亀岡が叫ばないようにハンカチで猿轡をかませている。
「じゃあ。出席番号一番の人から」
 呼び出し役は書記の鈴木だった。出席番号の一番は阿部良子。だが、良子は机に座ったまま動かなかった。制服の背中がかすかに震えているように見える。
「良子早くしろよ」
 牧原が苛立って言った。さっき牧原が亀岡は良子にちょっかいを出したと言ったのを思い出した。あれは島の気持ちを考えて言ったのだと思っていたが、実はみんなのマドンナに近づこうとしたことに腹を立てたのかもしれない。そして、その中には交際をはじめた島への怒りも、それを許した良子への怒りも含まれているのではないか。
「こんなのおかしいと思わない?」と良子が振り向いて全員に言った。声が震えていた。目には涙があふれている。良子と目が合った。島はこのとき確信した。亀岡がこの時代に島を戻したのは実験のためではないと。島はこの後起こる事件の責任を問われているのだ。
「やめよう。くだらない」
 島は立ち上がって言った。教室中の目が島を見た。
「福尾、牧原。鈴木もやめるんだ」
 島は自分がどれくらい彼らに影響力を持っているか分からなかった。だが、個人の名を出して制した方が効果的だと思った。
「島ちゃん。これはクラスみんなで決めたことなんだ。あんたに言われてやめるようなことじゃない」
 福尾の声は低く冷静だった。
「あんた。良子としたんだってな」
 牧原が言った。良子の小さな悲鳴が聞こえた。牧原はいつになく暗い目をしている。男子たちが島を一斉に見た。嫉妬。怒り。
「それは亀のこととは関係ない」
「あんたが言い出したことだろう。亀が良子にちょっかい出してるから懲らしめてやれってな。それを今更なんだよ」
 福尾の声に怒気が含まれていた。そしてその怒気は福尾だけのものではない。牧原、鈴木だけではない。亀岡以外の男子が「良子とした」という牧原の言葉によって日頃抑え込んでいる獣を解き放った。そのすさまじい力で島を圧し始めていた。

 意識が未来に戻ったとき、島はシャツをめくってみた。コンパスで四十回刺された痛みがまだくっきりと残っていた。だが、傷跡はもうなかった。タイムマシンを使う前、島は妻の良子からホームレスになった亀岡を救ってくれと言われていたはずだ。だから、まずは「奥銀座」のドラゴンパレスに連れて行き乙女と会わせることにした。亀岡は当然ながら乙女を欲しいと思うだろう。そうしたらある提案をしてみようと、腕時計のガラスを指で撫でながら島は思っていた。 
                   おしまい

 *この作品は『浦島太郎』をモチーフにしています。 

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ショートショート作品 『彼は桃からなんて生まれない』 [短編]

ショートショート作品 『彼は桃からなんて生まれない』

**あらすじ***
 ある日浴槽に大きな「桃」が浮いていた。家族は「桃」を食べた。翌朝から80歳代の孝夫と妻の知恵の若返りがはじまった。孫の百合花が祖父母の若返りをネットで相談すると、誘導されたサイトには「桃」を食べた者への政府機関からの警告が載っていた。百合花は懐妊した知恵を逃がそうとするが……。


**本文***
 孝夫は真新しいバスルームに満足していた。冬なのに床は温かく天井の換気口からも温風が吹き込んでいた。昨年だけでも3人の友人や先輩がヒートショックで亡くなっていた。今年85歳になる孝夫にとってもヒートショックは脅威だった。
 シャワーで身体を洗った孝夫は浴槽を見た。嫁の真希が入れたのだろう。湯は入浴剤で鮮やかな紫色に染まりラベンダーの香りがした。バリアフリーなので床と浴槽の縁の段差もない。足先で湯の温度を確かめながら浴槽に入ろうとした時、それは突然浮かび上がってきた。
「知恵はいるかい」
 バスルームに設置したインターホンのボタンを押しながら孝夫が言った。1階の台所とリビングに通じているはずだ。
「はい。なんでしょう」
 嫁の真希の声がした。風呂に入ろうとした時、知恵が2階の炬燵で転た寝をしていたのを孝夫は思い出した。
「真希さん。風呂に何か浮いているんだが、何か入れたかい?」
「入浴剤なら入れましたけど、他には何も……。そうだ。お母様が柚子を入れたのかもしれません。お隣からもらったとおっしゃってましたから。ラベンダーの入浴剤とは合わないんですけどねえ……」
「いや。これはどう見ても柚子じゃないな。もっと大きいし、それに色も黄色じゃない」
「父さん。どうした?」
 インターホンから浩太の声がした。
「悪いが浩太。バスルームに来てこれを見てくれないか」
「今かい。今はちょっとな。後半がすぐに始まるんだよ」
 浩太はリビングで孫の守とサッカーの国際試合を観ていたはずだ。親子ともども高校までゴールキーパーをやっていた。今は守は普通の企業で働いているが、週末には父子でフットサルに興じている。つまり父子揃ってのサッカー馬鹿だ。
「これがあると浴槽に入れないんだ」
「とりあえずどっか隅にでも置いといてよ。後で守となんとかするから」
「わかった」
 孝夫はもう一度浴槽に浮かんだそれを見た。直径が50センチほどのピンクの球体が水面に少し顔を出して浮いている。
「しょうがないなあ」
 孝夫が浴槽とそれの隙間に身体を入れると、いきおいそれを抱えるような格好になった。指先で触ってみた。表面には柔らかな毛のようなものが生えていた。指に力を入れると指先が皮のようなものを破って柔らかなものに触れた。入浴剤とは違う香りが漂った。試しに持ち上げてみようとしたが、かなりの重量である。孝夫は諦めて目の前にそれを見ながら温い湯の中に身体を沈めた。
「あなた……」
 脱衣場から知恵の声がした。孫娘の百合花が心配して知恵に知らせてくれたのだろう。この家で孝夫に優しいのは百合花だけだ。
「お爺ちゃん。大丈夫?」
 百合花の声もした。
「湯船に何か浮いているんだ。知恵、ちょっと見てくれないか」
 バスルームの扉が開いて知恵が顔を出した。
「これだ」
 孝夫がそれを顎で示すと知恵は浴槽の近くまでやって来た。百合花は脱衣場から心配そうに見ている。
「あらまあ。大きな桃?」
「桃?」
 言われて気付いた。今孝夫の目の前に浮かんでいるものは確かに「桃」によく似てる。
「とにかくこれが浮かんでいると邪魔なんだ。なんとかしてくれないか」
 知恵は笑いながら浴槽のそばに来て桃を触りはじめた。
「ほんとに大きい桃ですねえ」
 百合花が、
「ねえ。パパあ。お爺ちゃんが桃が邪魔でお風呂入れないんだって。なんとかしてあげて」と言いながらリビングに去って行く声が聞こえた。やはり自分のことを心配してくれるのは百合花だけのようだ。
 しばらくして浩太と守がやって来た。2人とも百合花に言われて仕方なくという感じで脱衣場から顔を出した。
「なんだこりゃ」
 と浩太が素っ頓狂な声を出し、
「おいおい桃を見つけるのは婆ちゃんの役だぜ」
 と守が嬉しそうに言った。
 浩太と守が2人がかりで桃を運び出してバスルームに静寂が訪れた。
「これでゆっくり出来る」
 孝夫は湯の中に半分顔を浸して思った。入浴剤のせいだろうか。手の甲が滑らかに感じられた。鏡を覗かなければ顔や身体の老いは見えない。だが、手だけは別だ。自分の視界の中にふいに現れて老いを実感させる。現役の頃でさえ無造作に差し出される若い奴の手の強さと張りに嫉妬したものだ。
 ところが、いつもは細かい皺に覆われて染みが浮いている手が、今は若い男のもののように見えた。老眼のせいだろうか。孝夫は湯で顔を洗ってもう一度手の甲を見た。やはりさっきまでと違う。皺も少なくなり染みがほとんど消えている。張りのある手だ。
「真希さん。あれはどこの入浴剤だい」
 風呂から上がった孝夫がリビングに入ると、テレビ画面にはサッカーの国際試合が映っていた。後半15分。日本代表が中東の国に1点のビハインドだ。ところが応援しているはずの浩太も守もソファーにいない。
「どうした。1点負けてるぞ」
 家族はキッチンにいた。テーブルを囲んで皆がそれを見下ろしていた。それの下には大きなビニールシートが敷かれ、明かりの下でそれはさも美味しそうに光っていた。美味しそう? 孝夫は自分の感想に驚いた。そう思ったのはさっき知恵が「桃」とそれを形容したからなのか。それとも今まさに知恵が包丁を持ってそれの前に立っているからなのか。家族たちも知恵の動きを固唾を呑んで見守っている。
「おいおい。まさか切るつもりなのか?」
「そりゃそうだよ。桃は切るもんだよ。なあ」
 守が百合花に同意を求めた。
「桃太郎ならね。そうなるね」
「いや。それはどうかな。中から有害物質が出て来たらどうするんだ」
「有害物質? 父さん。有害物質の入ったものがうちの風呂場にあるわけないだろう」
「それを言うなら、うちの浴槽に桃、いや桃のようなものが浮いているのもおかしいだろう」
「今日風呂場に入ったのは……」
 みんなが真希を見た。バスルームの掃除はいつも真希の役割だ。
「あたしが入浴剤を入れたときにはそんなものありませんでしたよ。ほんとですよ」
「こういうときは誰が得するか考えるといいらしいよ」
 ミステリー好きの百合花が言った。実に理性的な考え方だ。
「桃を浴槽に浮かべて得する奴なんていねえよ」
 守が言った。こんな感情的な長男でこれからの家は大丈夫なのか。孝夫は少し不安を感じた。
「やっぱり父さんだろ」
「私がそんなことをするはずがないだろう」
 大手商社の部長まで務めた男だぞ。と言いそうになったが止めた。こういう言い様はとかく人気がないことも最近やっと分かってきた。
「お父さんがそんなことするはずないでしょう。大手商社の部長まで務めた人なのよ。ねえ」
 知恵が包丁を振りかざして主張し私に同意を求めた。知恵はまだ分かっていないようだ。家族が私を責めるように見た。
「そんな人だからだよ」
「どういう意味だ」
 守の発言についつい気色ばんでしまった。
「現役のときに出世した人に限って老後は孤独なんだってさ」
「役職や地位を引きずって家族には疎まれる。新しい友達もできない、だろ」
 浩太と守はサッカーのパスでもするように孝夫を責めた。
「それがこれとどういう関係があるんだ」
 孝夫はだんだん腹立たしくなってきてそれをにらみつけた。ぜんぶそれのせいだ。桃らしきものの。
「だからさ。寂しいと家族の気を引こうとするんだよ」
「なんだと」
 守のシュートが孝夫の胸を突いた。
「守。それは言い過ぎだ」
「そうよ。守。お爺ちゃんは寂しくなんかないでしょ。あたしたちが一緒に住んでるんですもの」
 息子夫婦が言った。熱のない言い方だった。確かに二世帯住宅に一緒に住んでくれるのはありがたい。だが、浩太は2年前に一流食品メーカーから子会社に出向になった。実体はリストラである。残り2年で退職だが退職金もかなり減額されるらしい。だから、建て直しの費用はすべて孝夫が出した。
「とにかく、あたしはこれを食べるから」
 知恵が包丁を振りかざした。
「キャー」
 百合花が叫んだので知恵の持つ包丁が止まった。
「どうしたの? 百合花」
「だって中に桃太郎がいたら死んじゃう」
「あっははは。ガキだなあ、お前。桃太郎なんかいねえんだよ」
「いるよ。桃太郎はいるよ」
「サンタクロースのことでもあんた達そうやって喧嘩してたわねえ。懐かしいなあ」
「ほんとだなあ」
 親子のこんな言い合いをよそに知恵が桃らしきものに包丁を振り下ろした。
「あっ」とみんな顔を覆った。だが、中に桃太郎はいなかった。桃の甘い香りがキッチンを満たした。
「いい香り。ねえ。食べてみよう」
 百合花の提案に誰も異議を唱えなかった。
 孝夫はすぐに異状に気付いたが、すでにキッチンテーブルの上で巨大な桃は切り分けられ、それぞれが果肉を皿にとってフォークで食べはじめていた。仕方なく孝夫も一切れを口に運んだ。今まで食べたどんな桃よりも甘かった。一口食べると止められなかった。テーブルを埋め尽くしていた果肉を6人の家族であっと言う間に食べ尽くしてしまった。
 翌朝、孝夫が目覚めたときすでに寝室に知恵の姿がなかった。身体がけだるかった。何10年ぶりだろう。知恵が孝夫を求めてきたのは。はじめは冗談かと思った。だが、2度目に知恵が孝夫に触れたとき孝夫は強く反応した。久しぶりの知恵の激しい声には驚いた。だが、いちばん驚いたのは自分自身の中の欲情だった。まるでハイティーンの頃のように何ものも怖れない衝動。3階建てのコンクリート建築なので、3階の孝夫たちの部屋の音が階下に漏れることはないと思うが、そんなことは全く関係なく互いを求めた。
「わーっ。お爺ちゃんもわかーい!」
 エレベーターを降りた孝夫を一目見て百合花が声を上げた。
「おはよう。浩太と守はもう出かけたのか?」
 百合花の歓声に戸惑いながら孝夫が言うと、背中を向けていた知恵が振り返った。それは確かに知恵だった。だが、10年、いや30年前の妻がそこに立っていた。
「あなた。何をおっしゃっているの。もう10時ですよ」
先月80歳になったばかりの知恵は綺麗な白髪だった。ところが今朝の彼女は50歳の頃の綺麗な黒髪に戻っていた。それだけではない。目の周りの皺がなくなって大きな目の輝きも蘇っている。
「お母様もお父様もいったいどうなさったんですか?」
 真希が孝夫と知恵を見比べながら言った。目は怯えで小刻みに震えていた。
「たった一晩でそんなに変わるなんて……」
 戸惑っている真希をよそに百合花は「すごいすごい」と知恵と孝夫に抱きついた。
「あなた鏡をご覧になって」
 呆然と立ち尽くしている孝夫に知恵が言って洗面所へと連れて行った。孝夫は鏡の中を見て心底驚いた。そこにいるのはまさに50代の頃の自分である。昨夜まではすっかり禿げ上がっていたはずなのに黒々とした髪が頭を覆っている。顔つきにも商社の部長として部下を叱咤していた頃の覇気があった。まさに孝夫が理想の自分として持っているイメージそのものだ。
「こんなことが……」
「……奇蹟だ」と百合花が言った。
「悪夢よ……」と真希が言った。真希はミッション系の学校に行っていただけあって、今でも聖書を愛読し教会にも時折通っていた。洗礼名はミッシェル。食前食後のお祈りを忘れない。
「いえ、悪魔の所業かもしれません。すぐにエクソシストを……」
 けして冗談ではない。真希の顔は真剣だった。
「ママ。これは神様のなさったことよ。真面目に生きているお爺ちゃんお婆ちゃんにご褒美をくださったに決まってる」
 百合花は孝夫たちの周りを跳ねながらながらそう言った。この子は本当にいい子だ。孝夫には百合花の背中に天使の翼が見えた。
 その夜は家族会議だった。
 家族全員が昨夜桃を貪ったテーブルを囲み、この奇怪な出来事にどう対処するかを話し合った。真希のSOSで早めに帰宅した浩太と守はまだ孝夫と知恵をちらちらと見ている。この事態をどう受け止めていいのか困惑しているのだ。こういうときは女性の方が柔軟な対応力を備えている。
「何が問題なのかわかんない。お爺ちゃんお婆ちゃんが若返って何かいけない」
 百合花が口をとがらせて言うと、すかさず真希が反論した。
「若返るってことが問題なのよ。神様はそんなことお許しにならないわ」
「毎日鏡見ながら『ああ神様。もう一度10代の肌にしてください』って祈ってるのは誰よ」
「い、祈るのと現実にそうなるのとは別よ」
「他人に起こった奇蹟は認めないんだ。嫉妬は見苦しいっていつも言ってる癖に」
「百合花!」
 真希が立ち上がったのを浩太が間に入って止めた。
「真希。冷静になれ。百合花も口が過ぎる」
「……ごめんなさい」
 百合花が謝ると真希も渋々腰を下ろした。
「それにしてもお父さん。何があったんですか?」
「それは私にも分からない。知恵も私も朝起きてみたらこうなっていたんだ。いちばん戸惑っているのは私達だよ」
 そう言いながら孝夫は自分の声の響きが肉体も精神も充実していたあの頃に戻っていることに気付いた。そんな孝夫に知恵が微笑みかけた。朝からさらに数歳若返ったように見える。
「すげえよ。親父やお袋と同じくらい。いや、もっと若くみえる。こんなことってあるんだなあ」
 守が祖父母の顔を見つめながら言った。
「もしかして、あの桃のせいかな」
 百合花の呟きに皆が反応した。
「でもよ。桃ならみんな食べただろ。むしろ俺たちの方がお爺ちゃんお婆ちゃんよりもたくさん食べた。でも、何の変化もない」
「そうだな。食べ過ぎてちょっと腹の具合が悪かったけど、それ以外は特に変わった感じはないな。どうだ。少し若返ったように見えるか」
 浩太が真希に尋ねた。
「いいえ。少しも。昨夜のままだわ。あたしはどう?」
「お前も変わらないなあ」
 浩太と真希の夫婦は互いの顔を見つめながら、ほとんど同時にため息を吐いた。
「お婆ちゃん。その服さあ。もう似合わないよ。ママの服借りたら」
「あら。そうかい。真希さん。ちょっと貸してくださる」
「ええ……それはかまいませんけど」
「ねえ。もっと若返ってあたしの服も着られるようになったりして」
「そんな馬鹿な」
 とその夜は誰もがそう思った。だが、百合花の言葉は現実になった。孝夫と知恵は毎朝起きるたびに若くなり、1週間もすると30代にしか見えなくなり、桜が咲く頃には20代の若者になってしまった。
「とにかくお父さんもお母さんもあまり外に出ないでくださいね」
 と浩太と真希には言われたが、20代の若者を家に閉じ込めておくことはできない。2人は昼間は肩を並べて公園を走り、夜になると仲良くクラブに繰り出した。
 その間、浩太は会社の上司に生物学の権威である教授を紹介してもらい2人に起こったことを内密に相談した。教授は2人の身体を子細に検査して学会に報告すると言った。真希は神父を通してカソリック教会に相談をした。この話はローマ法王庁にまで上がり「神の仕業か悪魔の所業か」で論争を巻き起こしたという。守はフットサルの仲間にこの話をしたが信用されず、飲み会に知恵を連れて行った。独身の連中は美しい知恵を見て色めき立った。だが、誰も守の話を信じなかった。

 百合花はネットで質問をしてみた。
(うちのお爺ちゃんお婆ちゃんは毎日若返っています。素晴らしい奇蹟です。でも、家族は戸惑っています。理由が分かればみんなが祝福できると思います。どなたか理由を御存知の方は教えてください)
 たくさんの返事があったが、たまたま4月1日だったのでへたな嘘として扱われたのだろう。(お婆ちゃんとのデートを希望します。5万までなら出します)などというふざけた返事ばかりだった。真剣に質問をした百合花は当然気分を害した。だが、中に一つだけ。
(お2人は桃を食べませんでしたか?)という返事があった。
(はい。食べました)と書き込むと、
(では、次のURLに進んでください。このURLはあなた専用です。他の方はアクセスできません)
 百合花は少し悩んだが、祖父母に起こった奇蹟について知りたかったのでアクセスした。それは『桃に気を付けろ!』というサイトだった。
「ある日、突然家の中に大きな桃が出現することがあります」
 多数の桃の画像がアップされていた。ソファーやベッドの上、クローゼットやシンクの中、テーブルや椅子の下、猫のトイレに鎮座としているものもある。
「あなたはこの桃を食べたいと思うかもしれません。もしまだ食べる前でしたら、お待ちください。これは罠です」
 そこに大きな赤い髑髏マークが出て来た。だんだん演出が過剰になってきた。これは詐欺めいたサイトの特徴である。さすがの百合花も警戒した。
「試しに包丁で切ってみてください。大丈夫。桃太郎は入っていません(笑)」
 こういうギャグセンスも百合花には理解できなかった。クローズしようと思ったが、孝夫と知恵の優しい笑顔が浮かんで思い直した。もちろん、若返る前の2人の顔である。
「ほら、中にタネがないでしょう。異常な食欲が湧いてくるはずです。もう一度言います。ここで踏みとどまってください。簡単なことです。丸ごと捨ててください」
 タネがないことも異常な食欲が湧いたこともその通りだった。不思議なことに百合花はそれが普通でないと今まで意識していなかった。
「これは私どもの研究で分かったことですが、甘い桃の香りの中に理性を鈍化させる効果があるようです。ですから捨てることができなくてもけしてあなたの責任ではありません。では、ここからは食べてしまった方へのアドバイスです。桃を食べた家族の方の一部、特に御老人に若返りの兆候が見られたら至急私どもにご通報ください。通報は義務です。義務を怠った方にはそれなりのペナルティが科されます」
 ここで再び赤い髑髏マークの点滅。
「若返りも罠です。今までの報告では若返った方すべてが80歳を超えた御老人です。人間の欲求があらかじめDNAに仕込まれているように、細胞が劣化した老人を若返らせることで盛んな生殖活動へと導き、植え付けたタネが人間の形で発生するようにプログラムされているのです。ですから、万一すでに女性が懐妊している場合には早急にご連絡ください。産まれてくるものは人類にとって大変危険です」
 そこには「通報する」という赤いボタンが激しく点滅していた。
 百合花はパソコンを荒々しく閉じた。そして思い直してもう一度パソコンを開くとアクセスしていたサイトから出た。百合花は小学生の頃から使っていた学習机の前で震える自分を抱きしめた。動悸が収まらなかった。自分はとんでもないことをしてしまったのかもしれない。もしも今のサイトが政府機関のものだったら、すぐに百合花の名前も家も突き止められてしまう。そうなったら……。
 百合花は深呼吸をして今起こったことを冷静に検証しようとした。でも、楽観的な要素はどこにも見当たらなかった。それどころかバッドエンドが様々な形で次々と脳裏に浮かんだ。とにかく確かめなくては……。
 百合花は2階に降りて祖父母の部屋のドアをノックした。すぐに「はあい」という祖母の若々しい声が聞こえてドアが開かれた。
「あら、百合花ちゃん。今ね、桜餅を食べてたの。あんたもどう?」
 百合花に微笑みかけているのは、百合花よりもちょっとだけお姉さんの美しい女性だった。今、包装を開いたばかりの新品の笑顔だ。おそらく若かった頃の現実の祖母よりもずっと光り輝いているに違いない。
「うん。お婆ちゃん。あのね……」
 知恵は白地に花柄のワンピースを着ていた。先週百合花がプレゼントしたものだ。そのワンピースの下腹のあたりが少し膨らんでいる。
「やっぱり分かる? 1ヶ月ですって。ごめんね。あんたの叔父さんか叔母さんが産まれるみたい」
 知恵は百合花を部屋に招き入れながら言った。ソファーにはまるで映画俳優のような笑顔を浮かべて1人の青年が悠々とワインを飲んでいた。祖父でなければ5分で恋に落ちてしまいそうな魅力的なオーラをまとって。
「よお、百合花珍しいな。桜餅食ってけ」
「お爺ちゃん。お婆ちゃん。あたしの話を聞いて。まじでやばいことになってるかも……」

 その日の深夜、その男たちが侵入して来た。
 3階のベランダから侵入し、まずは守。階段を降りて孝夫と知恵、そして最後は1階に寝ていた浩太と真希を殺害した。浩太は上の階の物音を聞きつけ、階段下の物置からゴルフクラブを取り出して待ち伏せた。最初に降りて来た男の頭にクラブを叩き付け重傷を負わせたものの、後続にあっさりと制圧されてしまった。ただ1人百合花の行方が分からなかった。男達は暗視ゴーグルをしたまま家中を探し回ったが見つからなかった。午前2時頃、本部の命令で家に火を点け男達は撤収した。

「本当にこれで良かったのかねえ」
 知恵は百合花の春物のコートを着て男の車に乗っていた。男は俊也と言って、百合花の秘密の恋人だった。2人はまだその夜の惨劇を知らなかった。
「百合花は言い出したらきかないですからね」
「ほんと誰に似たんだか」
 俊也はその日百合花から「助けて」というメールを受け取った。急いで家に駆けつけると、
「これあたしのお婆ちゃん。しばらく預かってくれない」と言われた。
 傍らにはピンクのセーターに春物のコートを羽織った20歳代の女性が立っていた。それは俊也が今まで一度も見たこともない種類の女性だった。夜の闇にも隠しきれない美貌に目が眩んだ。百合花がいきなり彼のすねを蹴った。
「何見とれてんのよ。いい? 誰にも知られちゃ駄目だからね。ちゃんとあんたの村で匿ってよ」
 俊也と百合花は中学校の同級生だった。3年生のとき、俊也がいじめをきっかけに行方不明になってからも百合花とだけは連絡を取り合っていた。彼は長野と静岡の県境にある隠れ里に同じような境遇の人々とともに暮らしていた。百合花でさえもその場所がどこかは知らない。ネットに詳しい俊也はいつも違うメールアドレスを使い連絡をよこした。そして読んだメールは自動的に消去された。俊也の居場所も村の場所も誰にも知られていなかった。だから、百合花は知恵を俊也に託すことにしたのだ。
「君は大丈夫なのか?」
「いくらなんでも、今夜すぐに動きがあるとは思わない。でも、万一のときには仇をとってね」
 百合花はそう言うと俊也に口づけをし、車を見送った。
 
 助手席にいた知恵がいきなり「あっ」と声を上げた。
「大丈夫ですか?」
 俊也が尋ねると、知恵は下腹を押さえながら、
「動いた。びっくりした。まだ1ヶ月なのにこんなに跳ねるなんて」
 と言った。
「ここで少し休憩しましょう」
 車は神奈川から静岡に入ったところで修理工場に入った。すでに夜が明けていた。男が来てナンバープレートを交換しはじめた。俊也は知恵に手を貸して車から降ろすと、工場の奥にある事務所に案内した。
「ここは僕の仲間の工場です。念のためナンバープレートを交換します」
 事務所のソファーに座って日本茶を飲んでいるとナンバープレートを替えていた男が戻って来た。
「紹介します。猿田です」
「初めまして。犬山百合花です。お世話になります」
 汚れたつなぎを着た猿田は眩しそうに知恵を見た。百合花と名乗った知恵を俊也は驚いて見た。
「なあ雉子尾。この人がお前の?」
「あ、ああ。まあな」
「羨ましいなあ。こんな綺麗な……あれ? あなた犬山百合花さん? 千葉市の?」
「え、ええ……」
 猿田は軍手を外すとそばにあったリモコンをテレビに向けた。テレビがついて朝のニュース映像が流れる。
「本日未明千葉県千葉市で火災がありました。この火災で亡くなった方は犬山孝夫さん85歳、妻の知恵さん80歳、息子の浩太さん58歳、その妻の真希さん54歳、そして孫の守さん24歳です。なお孫の百合花さんの行方がまだ分かっていません。出火の原因は浩太さんの煙草の火の不始末が原因であると……」
 知恵が悲鳴を上げて泣き崩れた。俊也はそばに寄って知恵を抱きしめた。
「浩太は煙草なんて吸わないのに……ひどい」
「知恵さん。いえ百合花さん。これからは僕があなたとその子を守ります。そしていつかきっと仇をとってやりましょう」
 泣いていた知恵が何か呟いた。俊也が耳を澄ますとそれは歌であることが分かった。
「……太郎さん、桃太郎さん。お腰につけたきびだんご。ひとつ私にくださいな。あげましょう。あげましょう。これから鬼の征伐に、これから鬼の征伐に、これから鬼の征伐に、着いてくるならあげましょう」
                            おしまい

 *この作品は『桃太郎』をモチーフに書きました。

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