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はじまり [詩]

はじまり      高平 九

「困っちゃった。」行きつけの喫茶店のカウンターでふいに君は言った。
「今日、アツシ君たら『先生、人間がどこから生まれるか知ってる?』って」
 君は小四の子供の家庭教師をしていた。
「あたしが困ってるとね。『あのね、人間ってその人のいちばん綺麗なところから生まれるんだよ』だって」
 皙い指がゆっくりと髪をかきあげた。まるで千年も前からこの瞬間にそうすることが決まっていたかのように。
「かわいいのよ」
 君は珈琲茶碗を掌の中に包んで言った。
「『先生は、その髪から生まれてきたんだね』ですって、……ねっかわいいでしょ。」
 動揺していた。「僕も」言いさして急に恥ずかしくなった。小四のアツシに僕は嫉妬していた。「そう思うよ」
 君の横顔がかすかに震えながらマンデリンを啜った。二人の間を沈黙がしずかにあふれる。僕がそれに溺れそうになった時、君がスプーンで掬えそうな小さな「ありがとう」と言った。

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